日本で一番珍しいフユシャクは何だろうか?
ひと昔前であれば、カバシタムクゲエダシャクで満場一致だったろう。しかし2016年に再発見されてから地位は陥落し、見に行ったことがある人も多くなった。
では今改めて選ぶなら何か?僕は是非このサクフウフユシャクを推したい。
その理由は、まずその生息地の狭さ。
熊本県と大分県の一部でしか見つかっていない。もちろん、その時期に副産物は多くは望めない(他のフユシャクか、ヒメヤママユか、ウスズミカレハか…)
次に、生息地のアクセスの悪さ
図鑑に載っている知られた産地は、地方空港から車で2~3時間の距離にある。
わざわざそんな時期にフユシャク狙いで遠征する人は、頭がおかしい。
かつても僕もそう思っていた
だが困ったことに、フユシャクの魅力に取りつかれ、いつしか全種自己採集を目指そうと思ってから、必ず狙わなければならない存在になってしまった。そんなわけで、はるばる九州は熊本空港へ向かった…
(ちなみに飛行機はANAのマイレージを使った、流石にそこまでお金はかけたくない)
2024/12/6
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羽田から1時間50分、熊本空港へ到着。空港周辺はくまモンとワンピースに侵略されていた。南無阿弥陀仏。
まずは腹ごしらえ
フユシャクの時間までしばらくあるので、熊本ラーメンを食べまわってみる。長浜博多のとんこつと違い野菜の旨味が効いて、毎日でも食べられる味という感想に落ち着いた。
- 味千拉麺
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- こむらさき
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季節はすっかり冬。熊本県庁のイチョウも黄色く落葉していた。これくらいがサクフウのシーズンなのだろうか。
さて、道中も楽しんだことだし、明るいうちへポイントへ向かう。幸いポイントの地名は「月刊むし・昆虫図説シリーズ11 日本の冬尺蛾」に記載がある。その林道へ向かう。
車で2時間ほどでポイントへ到着
そこで事件発生
なにやら林道の工事とやらで、休日のしかも夕暮れ時だというのに
作業員が林道の入口を交通整理していた
立て看板には、奥に砂防ダムを作るらしいことが書いてある。
なんという不運。林道に入ろうとしても、作業員に「この先は通行止めだよ?」と制される。
仕方ないので、一本向こう側の林道へ向かうが、そちらは牧草地のような感じでフユシャクが飛んでいそうな環境ではない。その林道の突き当りからは、建設中の砂防ダムが見えた。
いよいよ日が暮れて、しばらくはその牧草地の脇の二次林で探してみるも、やはりフユシャクは全く飛ばず。そろそろ作業者も帰った頃と思い、初めの林道へ戻ってみる。
作業者は全員帰っており、静かな林道となっていた。改めて立て看板をよく見ると、通行止め区間は砂防ダムの直前からで、そもそも目指していた林道の雑木林は全く交通規制のない区間なことが判明…
やられた!
最初に作業員に説明して雑木林に入れて貰えばよかったのだ。
既に暗くなって2時間ほどが経過しており、九州とは言え山間の地域なので気温はかなり下がっている。雑木林を数時間歩き回ってみても、全く蛾の気配がない。
この時期に全くフユシャクすら飛んでいないのは不思議だが、実際そうなのだ。それは以前にも確認している。
実は2023年にもサクフウフユシャク狙いでこの場所を訪れており、その時は先に九重連山のクジュウフユシャクを採集してから深夜に到着した。その時も全く蛾は見つからず、ようやく凍ったウスタビガ♀の死体と街灯に付いていたイチゴキリガを発見しただけだった。
今回はリベンジとなる。以前は深夜2時頃の探索だったが、今回はまだ夜9時過ぎ。ウスバフユシャクやナミスジフユナミシャクには多少遅いが、飛んでいてもおかしくない時間のはず。
森の樹種もサクラ、コナラをはじめとしたよくある二次林的な雑木林で、隣の区画が大きな牧草地であることや、雑木林の中にスギの植林がそこそこの面積あることは気になるが、全く悪い場所でもなさそうだ。
しかし、全く飛んでいない。
結局、周辺も含めて探し回ったが、この日は糖蜜も含め1匹も蛾を見ることは無かった。
2024/12/7
翌日
突然だが、採集において睡眠と食事は大事である。
幸い僕は苦も無く車中泊ができるタイプで、全く睡眠に心配はない。次に食事だ。これだけ採れないつらい採集になると、景気よく旨いものでも食べたいものだ。(きっと採れても同じことを言っている)
なんと今回のポイントのすぐ近くには、行列ができるという赤牛ステーキのお店がある。当然行くしかない。Googleの評価もかなり高いが、果たして…?
文句なしにうまあああああああああい!!!!!!!!!
…
さて、早くもこの日の夜がラストチャンス。前日の教訓を元に、林道の通行止めでない区間に堂々と車を入れ、暗くなるまでスタンバイする。
今まで2晩この場所で夜を明かしたが、遅い時間はかなり確率が低いと思われる。とすると、勝負は日没直後。西日本なので暗くなるのが17:30頃として、そこから約2時間のうちに雑木林を歩き回って、とにかく飛んでいる個体を見つけたい。
いよいよ暗くなる。
まずは車のシガーソケットから電源を取った今峰HIDで林内を照らす。そしてしばらくその林内を散策した後、HIDに戻って来た蛾をチェックする、という作戦にする。
歩くうちに雑木林の中でも大通り沿いの場所に出る。手すりに薄気味悪く絨毯が干されている。まじでなんなんだ?不法投棄?
時刻は17:40、この不気味なオブジェクトをしり目に歩いていると…ようやく…
フユシャクが飛んでる!!!
灌木の高いところを飛んでいて網が追い付かなかったが、ようやくフユシャクの姿を見ることができた!
この区画で粘ってみよう
そう思い、あたりを入念に探索、すると…
いた!!!!!!!
サクフウフユシャクだ!!!!!
3度目の正直でようやくGET!シロオビフユシャクと同属で、図鑑の上ではどう見分けていいか分からなかったが、実物を見ると明らかに茶色みがあり一目で独立種と気づく。うおおおおお!!!!!
雑木林で雄たけびをあげそうになったが、流石に周囲に人がいたらまずいので自重。しかし、そのくらい嬉しかった…!昨日の通行止めなぞもうどうでもいい!
周囲を歩くと、少ないながらも飛んでいる。結局、この周辺で飛んでいるフユシャクは全てサクフウフユシャクで、合計3匹のサクフウを採集、1匹を目撃することができた。驚くことに観察は全てこの一角で、他の場所では他のフユシャクを含めて全く飛んでいなかった。
…
…
…
さて、
これ以上この場所にいてもサクフウの追加が得られそうにないのはこれまでの採集で予想が付いている。九州にはもう一種類固有のフユシャクがいて、同じ時期に大分県の九重連山で発生している。
そのフユシャクはクジュウフユシャク。
2023年にはクジュウフユシャクを多数採集しているが、あのフタスジフユシャクのようなシュゼンジフユシャクのような羽の模様は筆舌に尽くしがたい美しさだ。
時間もあるし、ここから車で2時間ほどでクジュウのポイントに行けるので
ここは折角なのでクジュウも追加で狙うことにする。
(車で2時間移動)
到着
ここでは道路上をフユシャクがふわふわ飛んでいるので、車を止めては捕まえてを繰り返す。慣れてくると飛び方だけで何のフユシャクか分かるようになってくる。ちなみに標高が高いとクジュウフユシャクが、少し低くなるとクロテンフユシャクが採れる。
このポイントは去年も同じように採集しているが、クジュウフユシャクは夜遅くでも比較的多くの個体を採集できる。登山シーズンには幼虫が害虫のようにミヤマキリシマを食い荒らしているのが目撃されているし、個体数も非常に多いのだろう。わざわざランタンを持って山に登る必要もないのは、ありがたい。
- クジュウフユシャク
- イチモジフユナミシャク
- ナミスジフユナミシャク
- ウスズミカレハ
ここでの観察ではクジュウフユシャクのほか、シロオビフユシャク、イチモジフユナミシャク、ナミスジフユナミシャク、ウスズミカレハを得ることができた。他には2023年にはナカジマフユナミシャク、長者原の街灯でオオチャバネフユシャクを確認している。フユシャク観察にはなかなか楽しませてくれるいい場所で、サクフウのついでに来れるのもいい。
2024/12/8
最終日
2024年はサクフウもクジュウも採れて、最高のフユシャク遠征になりました。後は適当に食事して紅葉見て馬刺し買って、安全運転で帰りました。
- くまもん
- ラーメン
- 紅葉
- 空港
おしまい