ナンベイオオヤガ Thysania agrippina 今回紹介するのは,南米最大の蛾ナンベイオオヤガだ 2017年9月,南米フレンチギアナでライトトラップを行った そこで,念願叶ってこの蛾と出会うことができた ナンベイオオヤガは,よく「世界最大の蛾」と呼ばれる ここでいう大きさは開帳,つまり標本にしたときの横幅のことだ ペルー産 ナンベイオオヤガ VS キシタバ 日本の蛾の中でもかなり大きめのキシタバと比べてみても,ご覧の通り 最大開帳は30cm以上[1]と,破格の大きさだ 上から,FG産,FG産,ペルー産 しかしながら,この蛾の大きさは個体差が激しい 手元の標本でもかなりばらつきがある そして,なぜかフレンチギアナのナンベイオオヤガは小さい 色にも個体差があって,白っぽいものからマーブル色,黒っぽいものまで様々だ 裏面 裏面は表の波模様似合わせて白い斑点が散りばめられている 地色はこげ茶色で,光の反射で紫色に光る これは鱗粉の持つ構造色によるもので,有名なモルフォだけでなく大抵の鱗翅目は構造色を持っている 御尊顔 顔はヤガらしく,複眼に毛がなく下唇鬚がよく発達している 鼓膜器 鼓膜器は発達し,体側に大穴を覗かせている 南米でもコウモリによる捕食圧は大きいのだろう 脚 がっしりした脚には距が目立ち,節々の色が薄く脚全体が縞模様となる こう見るともはや只のヤガだ 日本のカトカラを見ているのとそう変わらない さて,お遊びは終いにしてそろそろ本番といこう ここからは,皆さんの素朴な疑問にお答えしたいと思う 「ナンベイオオヤガ,言うほど大きいの?」 こんな細っちい蛾が世界最大なのか?ヤママユガのほうが大きいんじゃないのか? 誰しもそう思ったはずだ 僕はそう思った だから,今回比べてみようと思う ※今回の比較は手元の標本によるもので,結果は一般性を欠くものです.ご注意を. ナンベイオオヤガに対抗するトップバッターはこちら Actias Maenas♀ Actias Maenas♀ Actias Maenasは,東南アジアに生息するヤママユガの仲間だ 日本のオオミズアオと同じActias属に属している 特に♀は巨大で,開帳だけでなく尾も含めた全長は目を見張る これを集めれば標本箱が一瞬で埋まってしまう ちなみに,この個体はキャメロンハイランドで現地人から数百円で購入した 現地で蛾はあまり取引されない だからこその値段だし,現地人もこの虫に関しては扱いが雑だった その証拠に,よく見ると前翅を摘んで出来たであろう鱗粉の禿げた箇所がある ちょっぴり文句を言いたくなったが,未採集だったので二つ返事で購入した そんな思い出のある巨大蛾だ 果たして,どちらが大きいのか… … … ナンベイオオヤガの圧勝 いやいやいや 比較の仕方がずるくないですか 尾の長い蛾なのだから,開帳で比べるのは不利だ お互いの全力で比較しないと,意味がない そう思われる読者さんのために,比べてみたのがこちら おや…? ナンベイオオヤガさん,負けてませんか? まあ,開帳で勝ったし無問題でしょ(手のひら返し) というわけで,Actias Maenas♀との勝負,ナンベイオオヤガの勝利 次なる相手は… Archaeoattacus edwardsii (エドワードサン) エドワードサン♂ エドワードサンは,日本最大の蛾ヨナグニサン Attacus atlasに近い,東南アジアの蛾だ エドワードサンはArchaeoattacus属,ヨナグニサンはAttacus属と,微妙に属が別れている Archaeo~は「古代の」という意味の接頭辞なので,Archaeoattacusのほうが先に生じた属ということだろうか 他にもArchaeoと名の付く属名に,南米のタテハチョウ科ルリオビタテハ族のArchaeoprepona属(オオルリオビタテハ属)がある こちらもArchaeoの付かないPrepona属(ルリオビタテハ属)が存在していて,姿も似ている 蝶の人気度で言えば,Prepona属(通称プレポナ)の方が圧倒的に上で,流通価格も高い 話を戻そう エドワードサンはマレーシアで灯火採集しているときに飛来したものを,採集した というと半分嘘になる 本当は,先に灯火していた同行者が捕まえたものを有り難く頂いたのだ あまりにも大きいので三角紙に入らず,急遽持っていたコピー用紙(エアアジアの使い終わった搭乗券)を折って三角紙代わりにした この蛾にもそんな思い出がある さて,本筋の大きさ比べ 果たしてどちらに軍配が上がるのか… … … おや…? これは言い訳できない エドワードサンとの勝負,ナンベイオオヤガの負け! ここで種明かしをすると,このナンベイオオヤガはまだ小さい方の個体なのだ 開帳が23.3cmしかない 一般的なナンベイオオヤガは開帳25cmあってもおかしくない 対して,このエドワードサンの開帳は24.5cm この小さい個体でなければ,ナンベイオオヤガのほうが大きかっただろう 大きいナンベイオオヤガ,売ってたら買いたいなあ ナンベイオオヤガ・まとめ 今回,世界最大の蛾と呼ばれるナンベイオオヤガを,他の蛾と大きさ比べしました その結果,手元の標本ではエドワードサンの方がナンベイオオヤガより大きいことが分かりました 適当に選んできたナンベイオオヤガだと,他のヤママユガにサイズ負けするという結論です ナンベイオオヤガが世界最大の蛾かどうかは,分かりませんでした ですが,世界にはまだまだ大きいナンベイオオヤガが居るようです 更に大きい標本を手に入れれば,世界最大の蛾かどうか確かめられるのではと思います いかがだったでしょうか?[2] おしまい [参考文献] [1]ぷてろんワールド 蝶の体について (https://www.pteron-world.com/topics/anatomy/anatomy.html) [2]ニュースポ24 (https://newspo24.com/7237.html#i-13)
ナンベイオオヤガ Thysania agrippina
今回紹介するのは,南米最大の蛾ナンベイオオヤガだ
2017年9月,南米フレンチギアナでライトトラップを行った
そこで,念願叶ってこの蛾と出会うことができた
ナンベイオオヤガは,よく「世界最大の蛾」と呼ばれる
ここでいう大きさは開帳,つまり標本にしたときの横幅のことだ
ペルー産
ナンベイオオヤガ VS キシタバ
日本の蛾の中でもかなり大きめのキシタバと比べてみても,ご覧の通り
最大開帳は30cm以上[1]と,破格の大きさだ
上から,FG産,FG産,ペルー産
しかしながら,この蛾の大きさは個体差が激しい
手元の標本でもかなりばらつきがある
そして,なぜかフレンチギアナのナンベイオオヤガは小さい
色にも個体差があって,白っぽいものからマーブル色,黒っぽいものまで様々だ
裏面
裏面は表の波模様似合わせて白い斑点が散りばめられている
地色はこげ茶色で,光の反射で紫色に光る
これは鱗粉の持つ構造色によるもので,有名なモルフォだけでなく大抵の鱗翅目は構造色を持っている
御尊顔
顔はヤガらしく,複眼に毛がなく下唇鬚がよく発達している
鼓膜器
鼓膜器は発達し,体側に大穴を覗かせている
南米でもコウモリによる捕食圧は大きいのだろう
脚
がっしりした脚には距が目立ち,節々の色が薄く脚全体が縞模様となる
こう見るともはや只のヤガだ
日本のカトカラを見ているのとそう変わらない
さて,お遊びは終いにしてそろそろ本番といこう
ここからは,皆さんの素朴な疑問にお答えしたいと思う
「ナンベイオオヤガ,言うほど大きいの?」
こんな細っちい蛾が世界最大なのか?ヤママユガのほうが大きいんじゃないのか?
誰しもそう思ったはずだ
僕はそう思った
だから,今回比べてみようと思う
※今回の比較は手元の標本によるもので,結果は一般性を欠くものです.ご注意を.
ナンベイオオヤガに対抗するトップバッターはこちら
Actias Maenas♀
Actias Maenas♀
Actias Maenasは,東南アジアに生息するヤママユガの仲間だ
日本のオオミズアオと同じActias属に属している
特に♀は巨大で,開帳だけでなく尾も含めた全長は目を見張る
これを集めれば標本箱が一瞬で埋まってしまう
ちなみに,この個体はキャメロンハイランドで現地人から数百円で購入した
現地で蛾はあまり取引されない
だからこその値段だし,現地人もこの虫に関しては扱いが雑だった
その証拠に,よく見ると前翅を摘んで出来たであろう鱗粉の禿げた箇所がある
ちょっぴり文句を言いたくなったが,未採集だったので二つ返事で購入した
そんな思い出のある巨大蛾だ
果たして,どちらが大きいのか…
…
…
ナンベイオオヤガの圧勝
いやいやいや
比較の仕方がずるくないですか
尾の長い蛾なのだから,開帳で比べるのは不利だ
お互いの全力で比較しないと,意味がない
そう思われる読者さんのために,比べてみたのがこちら
おや…?
ナンベイオオヤガさん,負けてませんか?
まあ,開帳で勝ったし無問題でしょ(手のひら返し)
というわけで,Actias Maenas♀との勝負,ナンベイオオヤガの勝利
次なる相手は…
Archaeoattacus edwardsii (エドワードサン)
エドワードサン♂
エドワードサンは,日本最大の蛾ヨナグニサン Attacus atlasに近い,東南アジアの蛾だ
エドワードサンはArchaeoattacus属,ヨナグニサンはAttacus属と,微妙に属が別れている
Archaeo~は「古代の」という意味の接頭辞なので,Archaeoattacusのほうが先に生じた属ということだろうか
他にもArchaeoと名の付く属名に,南米のタテハチョウ科ルリオビタテハ族のArchaeoprepona属(オオルリオビタテハ属)がある
こちらもArchaeoの付かないPrepona属(ルリオビタテハ属)が存在していて,姿も似ている
蝶の人気度で言えば,Prepona属(通称プレポナ)の方が圧倒的に上で,流通価格も高い
話を戻そう
エドワードサンはマレーシアで灯火採集しているときに飛来したものを,採集した
というと半分嘘になる
本当は,先に灯火していた同行者が捕まえたものを有り難く頂いたのだ
あまりにも大きいので三角紙に入らず,急遽持っていたコピー用紙(エアアジアの使い終わった搭乗券)を折って三角紙代わりにした
この蛾にもそんな思い出がある
さて,本筋の大きさ比べ
果たしてどちらに軍配が上がるのか…
…
…
おや…?
これは言い訳できない
エドワードサンとの勝負,ナンベイオオヤガの負け!
ここで種明かしをすると,このナンベイオオヤガはまだ小さい方の個体なのだ
開帳が23.3cmしかない
一般的なナンベイオオヤガは開帳25cmあってもおかしくない
対して,このエドワードサンの開帳は24.5cm
この小さい個体でなければ,ナンベイオオヤガのほうが大きかっただろう
大きいナンベイオオヤガ,売ってたら買いたいなあ
ナンベイオオヤガ・まとめ
今回,世界最大の蛾と呼ばれるナンベイオオヤガを,他の蛾と大きさ比べしました
その結果,手元の標本ではエドワードサンの方がナンベイオオヤガより大きいことが分かりました
適当に選んできたナンベイオオヤガだと,他のヤママユガにサイズ負けするという結論です
ナンベイオオヤガが世界最大の蛾かどうかは,分かりませんでした
ですが,世界にはまだまだ大きいナンベイオオヤガが居るようです
更に大きい標本を手に入れれば,世界最大の蛾かどうか確かめられるのではと思います
いかがだったでしょうか?[2]
おしまい
[参考文献]
[1]ぷてろんワールド 蝶の体について (https://www.pteron-world.com/topics/anatomy/anatomy.html)
[2]ニュースポ24 (https://newspo24.com/7237.html#i-13)