深夜の奥多摩ルッキング 2015

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深夜の奥多摩ルッキング

当時、まだ灯火採集装備を持っていなかった。それでも蛾を採るためには灯火巡りだろう。ただ奥多摩駅の周りの街灯を見て回るのでは、さして種数が採れないのは分かっていた。

なら、いっそ山間部を目指して歩き続けるのはどうか?。そこで思いついたのが、夜奥多摩ウォークだ。

終電で奥多摩駅に到着し、10km歩いて日原集落までの道のりで灯火に集まる虫を観察する。車道を辿るだけだから遭難の心配もないし、何より安上がりだ。ついでに、翌朝日原林道で春型のミヤマカラスアゲハも狙える。

そんなことを、2015年に2度ほど行った。

あんりおすすめしない採集だが、供養の意味も込めて今回記事にする。


2015年5月16日

終電奥多マーーーーン!!!!!(💳ω💳)ムムッ!!!!!

夜の奥多摩は静まり返り、工場が稼働する音が川のせせらぎに混じる。気温はさすがに肌寒いが、春先に比べれば暖かい。着実に初夏が近づいているのが分かる。雨上がりで道路は程よく湿っていて、いかにも生き物が出てきそうな雰囲気だった。

網を取り出し、道を行く。

すると桟橋のあたりで、早速カジガカエルのお出まし。

カジカガエル

橋を渡り、日原への道をグーグルマップで確かめる。やがて奥多摩の中心街を抜けると、景色が建物から林に変わる。その境は林縁のような環境になっているのだろうか、蛾がポツポツ明かりに止まっていた。

アオスジアオリンガ春型

ハイイロシャチホコ

薄暗い植林を、蛾を採集しつつ進む。そこではポツポツと街灯が道を照らしていて、その柱を見つつ歩く。コンクリートの柱は止まりやすいのだろうか、羽化後まもない蛾が翅を休めていた。

ミスジシロエダシャク

ギンモンカレハ

確かに蛾はいる。しかし、まだ平地でも観察できそうな種しか見ていない。せっかく奥多摩まで来たのだ。もう少し歯ごたえのある蛾に出会いたい。

先へ先へと、足を進める。

すると、沢沿いの街灯に赤っぽい蛾が止まっているのが見えた。

エゾギンモンシャチホコ

普通種ではあるが、ブナ食いなので相応の場所でないと出会えない。ようやく奥多摩らしさが出てきた。

テンションが上がる。

ところで、深夜の徘徊はテンションが命だと思う。ひとたびテンションが下がれば、怪談話を思い出したり、人の声を錯覚したりして、次第に怖さが勝ってしまう。なので、テンションを維持するために常に音楽をかけ、たまに歌った。パトカーが通れば職質を免れないだろうが、蛾が採れずテンションの上がらない間はこれが欠かせなかった。

いくつか分岐を進み、川幅も狭くなってきた。曲がり角のひときわ明るい街灯に、ようやく春の女王がいた。

オオミズアオ

この個体はやけに小さかったので、お持ち帰り。壁にもう一個体いたので、撮影しやすいよう道路に移す。

オオミズアオ

もうだいぶ来ただろうか。工事現場の自販機には、小型の蛾が集まっていた。

スジベニコケガ

ホソオビヒゲナガ♀

長いトンネルを抜けると、終着地はすぐ目の前。奥多摩駅から、観察しつつ歩いて4時間。ようやく日原集落へたどり着く。民家の明かりに、蛾が止まっていた。

フトオビホソバスズメ

ヒサゴスズメ

アミメリンガ

サッポロヒゲナガ?♀

少し進んで、人気のないところで寝袋を広げると、微かに人の気配を感じた。なんと、知り合いだった。ミヤカラ春型を狙うために、車で前入りしたらしい。その日は少し狭くなった寝床で、眠りについた。

翌日の成果

ミヤマカラスアゲハ春型♂

ヘリグロベニカミキリ

フタイロコヤガ


2015年7月11日

研究が忙しく、採集へ行けない日々が続く。虫屋としてフラストレーションが溜まっていた。卒論の中間諮問が終わった瞬間、「奥多摩行こう」と思った。

終電に乗り込み、日付が変わる頃に奥多摩駅に降り立つ。前にも歩いた道を、今夜も歩く。二か月経てば季節も進むもので、出会う蛾は夏のそれになっていた。早速、駅の周辺で蛾がお出迎え。

ハラアカマイマイ

ソトウスグロアツバ

ムジホソバ

マルモンシャチホコ

マルモンシャチホコはブナ食いの虫なので、よい蛾ですね。途中、街灯に照らされた木を網でスウィープしてみると、小さな蛾がたくさん網に入る。

ゼニガサミズメイガ

ミズメイガの一種、ゼニガサミズメイガ。ミズメイガには幼虫期に水中で生活する種がいて、中には気管に鰓を持つ種もいるとても面白いグループだ。歩みを進めると、見晴らしのいいカーブの街灯に蛾が集まっていた。

キボシノメイガ

ミスジビロードスズメ

アカスジシロコケガ♂

アカスジシロコケガ♀

アカスジシロコケガは♂は点が二つ、♀は点が一つあることで雌雄が分かる。ただし、南方にはヒトテンアカスジシロコケガという別種もいるので注意。

ベニシタヒトリ

明かりにはベニシタヒトリが舞っていた。オオバコ食ってそうな前肢の模様してるなぁと見るたびに思うのだけど、なぜだろう。

ノンネマイマイ♂

リンゴツノエダシャク

コヨツメアオシャク

オビマイコガ

スギドクガ

そうこう歩くうちに、終点の日原集落へ到着。今回は集落周辺の明かりに蛾は集まっていなかった。観察できた蛾の数は、二か月前と大体同じくらい。しかし、見られた種類はそれぞれで全く違った。また、ブナ食いの蛾に二回とも出会えたので、奥多摩らしさを感じることができた。

難点を挙げると、クマに遭遇する可能性があること、一人で行くとかなり孤独なこと、ぶっちゃけ灯火採集をしたほうが効率がいいこと。道路が整備されて街灯が設置された期間が長い場所は、虫も減ってしまうのだろう。

苦し紛れの採集でも、当時としては楽しめましたよという採集記でした。